「不動産売却等に関する第三者検討委員会」、「かんぽの宿」売却に違法性なしと発表【賃貸等不動産時価評価・不動産鑑定・相続税還付・広大地判定/神奈川鑑定】

「不動産売却等に関する第三者検討委員会」、「かんぽの宿」売却に違法性なしと発表

日本郵政が設置した「不動産売却等に関する第三者検討委員会」(委員長=川端和治弁護士、委員=黒田克司公認会計士、澁井和夫不動産鑑定士)は、平成21年5月29日「かんぽの宿」問題に関する報告書を発表した。
報告書の要旨は以下のとおり。

報告書【要旨】
平成21年5月29日
不動産売却等に関する第三者検討委員会
〔委員長〕弁 護 士 川端 和治 公認会計士 黒田 克司 不動産鑑定士 澁井 和夫 (敬称略)

1 はじめに
不動産売却等に関する第三者検討委員会(以下、「本委員会」という)は、日本郵政グループが保有する不動産の売却等についての基本的考え方及びルールなどを整理することを目的とし、日本郵政株式会社(以下、「日本郵政」という)より概要の説明を受けるとともに、日本郵政公社(以下、「公社」という)時代の不動産処分や、今般の「かんぽの宿等」の事業譲渡についても、日本郵政に資料の提出を求め、その資料の点検・査読、関係者のヒアリング及び現地視察などにより、必要と判断した検証を行った。その結果、検討項目別の提言を取り纏めるに至ったので、本日ここに報告を行う。

2 検討の前提

(1) 法令による枠組み
ア 資産の承継 【省略 本文P.1】
イ 処分義務及び民業への配慮 【省略 本文P.1】
ウ 不動産処分等についての認可の必要性 【省略 本文P.1】
エ 雇用への配慮 【省略 本文P.2】

(2) 日本郵政グループが保有する不動産について現在までに至った経緯
ア 減損会計の適用 【本文P.2】
公社の会計は日本郵政公社法の定めにより企業会計原則によるものとされており、平成17 年度から上場企業等に減損会計が強制適用されたことを受け、公社においても平成17 年度中間期決算から減損会計を適用した。かんぽの宿等及びメルパルク等についても、個別施設毎の損益管理を実施し、減損損失認識の判定を経て、不動産鑑定評価(平成19 年度は譲渡を前提)に基づいた回収可能価額まで帳簿価額を減額して減損損失を計上した。減損会計は私企業固有の会計基準ではなく、独立行政法人や公益法人等の非営利の分野においてもすでに導入されている会計基準である。

なお、日本郵政の株式は、将来広く一般投資家に公開されるのであり、投資家保護の観点から株価の裏付けとなる資産価値を過大に見積もることは会計上容認されない。
イ 承継した不動産 【省略 本文P.3】

(3) 本委員会の検討の範囲 【本文P.3】
本委員会は、公社法、郵政民営化法等法令の規定、公社時に適用された減損会計の是非、民営化時になされた「評価委員が評価した価額」、あるいは資産を振り分けた承継計画について意見を申し述べる立場にはないので、適切な手続きを経て日本郵政グループ各社が承継した不動産及びその価額を本委員会の検討の前提としている。

3 本委員会の開催状況 【省略 本文P.4】

4 過去の不動産処分の検証

(1) 公社時代のバルク売却について

ア 不用資産の決定、及び売却方法の決定 【省略 本文P.5】

イ バルク売却という売却方法の選択について 【本文P.5】
バルク売却は民間でも一般的であり、バルク売却の売り手には効率的な売却処理が可能となる利点があること、現実の売却価格も個別の鑑定評価額の総額を上回っていることから、バルク売却という手法を選択したことに特段の問題があったとは言えない。
しかしながら、バルク売却という方法を決定するに当たって、経済合理性、緊急性が十分議論されたか、また平成17年度から地方ごとに少数の複数物件をまとめて売却する「グループ売却方式」を導入するなど一定の工夫は認められるものの、グルーピングなどの工夫が十分であったかについては、確認することはできなかった。

ウ 売却先の選定について 【本文P.6】
いずれも一般競争入札という選定方法を採用していた。
ただし、公的資産の売却であるから、応札者の形式的要件の確認に留まらず、資本及び人的関係を把握すること等により、不正な意思に基づく一者入札とならないよう精査する余地はあったと考える。

エ 売却先等及び制限条件について 【本文P.6】
公社の規定により、地方公共団体に対しては事前に情報提供するなどして取得希望の有無についての確認が行われていた。
また、転売については、できるだけ競争原理を高めるとの理由から、特段の制限を行っていなかった。購入者全てに物件の自社使用義務を課すことは現実的でないが、公社資産の売却であり、ただちに転売することによって巨額の利益を得るような事例が発生すれば強く非難されるリスクがあったのだから、より慎重な考慮が必要であった。

オ 会計処理について 【本文P.6】
一般の企業会計における事業毎のセグメント開示は営業損益までであり、また、不動産等の売却損益は原則として特別損益として計上されるのでセグメント開示対象外であるが、公社においては日本郵政公社法の規定により、郵便・貯金・簡保それぞれの事業毎に最終損益まで区分経理することとされており、バルク売却の総額を一定の方法により個別物件に配分し、その売却損益を各事業別損益に反映させる必要があった。
個別物件毎のみなし売却額は、平成16 年度においては全体の売却額を個別物件の鑑定評価の比率で按分するというものであったが、平成17 年度のバルク売却において購入者側からヒアリングした価額と鑑定評価額とが大きく乖離する事例が生じたことから、原則としてこの1 物件以外については鑑定評価額をみなし売却額とし、鑑定評価額の総額と売却総額の差をこの1物件のみなし売却額とした。さらに平成18 年度には買い手により算定された個別取得価額をもって事業別損益算定のための個別物件のみなし売却額とすることに変更された。監査法人はどちらの配分手法も適正としていたが、公社のバルク売却についての考え方が、「個別物件の鑑定評価を取得し、その総額以上であれば売却する」というものであったことからすれば、本委員会は、平成16 年度に採用していた鑑定評価額の比率で按分する手法の方が公社の論理としては一貫したものではなかったかと考える。
また、バルク売却の場合、売却価格は総額としてしか存在しないにもかかわらず、個別物件についての買い手による算定取得価額を、あたかも個別物件ごとに1千円や1万円等の売却価格が存在していたかのごとく誤解されるような方法で開示したことは、情報の開示方法として不適切であったし、その際の説明もきわめて不十分であった。

カ 鑑定評価について 【本文P.7】
本委員会では、前項の平成18 年度バルク売却において1千円や1万円で売却したかと誤解された11 物件について、鑑定評価額と日本郵政がその後調査した転売価格の格差の検証を行った。その結果、旧社宅等物件については、転売価格が判明しているもので転売価格が鑑定評価を上回っているものはなかった。
なお、旧かんぽの宿(鳥取岩井)については、鑑定評価では宿泊施設としての収益価格を採用し37 百万円と評価しているが、60 百万円で転売されている。しかしながら、本件の転売先は、社会福祉法人(医療法人)であり、用途を軽費老人ホームへ変更して使用する目的で購買したものである。本件の場合、このような特殊な買い手が施設を別の目的で使用することは全く想定できなかったのであるから、この鑑定評価が不適切であったとは言えない。このような例が存在するからといって、公社の鑑定評価やバルク売却という方法の採用が不適切であったと言うことは妥当ではない。

キ 売却価格について 【本文P.8】
公社としては、企業会計原則に従って適正な鑑定評価を得て減損処理をした簿価を決定していたのであるから、保有コストや地価変動リスクも考慮して、簿価の合算額を最低価格として競争入札に付したことが不適切とは言えない。
なお、バルク売却に含まれていた、廃止した宿泊事業用の資産については、その鑑定評価額が収益還元価格を最も重視される要素として決定されていることには合理性があり、その評価額に不動産取得価格や路線価・固定資産評価額からの乖離がありうること当然である。
ただし、鑑定評価額が市場価格と大幅に乖離する例もあったことを考えると鑑定評価の前提条件が売却の条件と合致しているかを精査すると共に、その時点での市場動向等の適切な情報を踏まえて、より適正な売却価格が設定できないかを改めて検討する様に努めるべきであったと考える。

(2) 今回のかんぽの宿等の譲渡について

ア 譲渡方法(事業譲渡)の決定について 【本文P.10】
日本郵政は委員会設置会社であり、その業務執行は執行役に基本的に委任されており、取締役会は主にその監督機能を担っている。業務の執行の決定に当たり、執行役も取締役も善良なる管理者としての注意義務を課されているが、この善管注意義務には経営判断の原則の適用がある。行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われ、その状況と執行役・取締役に要求される能力水準に照らし著しく不合理な判断がなければ、結果の如何にかかわらず、経営判断の範囲内の行為として注意義務の懈怠とはならないのである。
後述するように、事業を一体として継続して雇用を維持することを条件として一括売却することは、売却価格自体の最大化とは相容れない要素を含む方針であり、この方針の採用は、日本郵政として重要な経営判断であったといえる。
本委員会では、その経営判断の過程が適切であったか、その判断に著しい不合理性が認められないかを検証した。以下項を分けてその結果を報告する。

イ 譲渡方法検討の経緯 【本文P.10】
公社は平成17 年12 月以降日興シティグループ証券をこの件のアドバイザーとして譲渡方針の検討を開始した。アドバイザーが翌年3月に提出した報告書によれば、かんぽの宿等及びメルパルク等の事業(以下、「本件事業」という)につき、子会社を設立して本件事業を移転し、事業の収益を改善した上で株式を上場して売却すること(IPO)が最適であるとされた。
平成18 年8月公社関連事業部と日本郵政(準備企画会社)の事務方同士で、個別売却、グルーピング売却、事業一括売却の3パターンについて、譲渡方法と取り得る方策の協議が行われた。
ついで、民営化前の平成19 年5月に、日本郵政(準備企画会社)は日本政策投資銀行とアドバイザリー契約を締結し、同年6月に報告を受けている。この報告は、処分方針としていくつかの案を提示しているが、かんぽの宿については個別売却を勧めるものの、一括オペレーションを前提とする買い手が存在すれば、一括売却も検討すべきとされた。また、雇用問題の扱いによっては処分価値に少なからぬ差があるものと試算されている。
その後日本郵政は、宿泊施設が日本郵政に承継されたことを踏まえて、平成19 年10 月23 日の経営会議で、宿泊施設の処分方針について協議し、かんぽの宿等については職員を含めて事業体として一括で譲渡を行う等の実施方針を定め、企画コンペ方式により売却譲渡先を選定することにつき、執行役社長の決裁を得た。この方針は同年11 月5 日の取締役会に報告された。
アドバイザー2社の提案の中で、職員を含めた事業体として一括売却という処分方針を策定した理由については、個別売却の場合売れ残りが発生する可能性がある、従業員の処遇が施設毎に異なることになり労働条件を一律とできない、あるいは不採算施設の雇用継続が不確実になる、といった懸念から、できれば一括事業譲渡が好ましいと考えたということであった。

ウ 譲渡方法検討・決定過程の適切性と処分方針の適切性 【本文P.13】
本委員会は、かんぽの宿等の処分方針策定は重要な事項についての経営判断を要する事項であったにもかかわらず、決定前の経営会議での協議及び取締役会への報告において、十分な情報が提示されておらず、トップレベルの十分な検討がなされていないという点で、適切性に欠けるところがあったと判断する。
その理由は、
第1に、雇用の維持を重視するか、処分価格の最大化を重視するかという相矛盾する要素について、どのような経営判断をするのかは、トップレベルでの慎重な討議検討を踏まえて決定されなければならない事項であり、経営会議においてその利害得失を十分検討され協議されなければならなかったし、取締役会にも報告されるべきであった。
第2に、経営会議の協議に際しては、一括事業譲渡という原案の他に、アドバイザーが推奨する別の案があること、及び80 施設を一括で購入できる者は自ずと限定されることから、雇用継続条件を付すにしても、一部を個別譲渡するといった方法もあり得ることが、比較検討されるべきであった。
第3に、雇用維持優先の一括事業譲渡という案を採用した際の処分価格の低下の可能性について、検討過程の記録が残されていなかった。重要事項の検討過程について記録が残されていないというのは、それ自体が不適切である。
しかしながら、以上のような決定過程の不適切性にもかかわらず、本委員会は、この処分方針の決定自体が、経営判断として許容される裁量の限界を逸脱した不適切なものであるとは考えない。
まず何よりも、参議院の附帯決議からも雇用の安定を最も重要な要素としたことはある意味で当然の判断であり、また価格の最大化のために雇用の継続が十分でない処分方針を策定すれば、労働組合の激しい抵抗により早期に円滑な処分を実現することはできなかったであろうと判断され、早期の円滑な処分を優先したことが著しく不合理であるとは言えない。残るのは、雇用に配慮するにしても、処分価格をより高額にするために一部を個別譲渡するといった方法を検討するべきではなかったかという点であるが、全国規模であることが魅力のひとつだったと考える投資家が複数存在し
ていた以上、一括事業譲渡は雇用への配慮や処分期限の義務という優先課題を満足する方法である上、さらに、かんぽの宿等の事業には継続的に営業赤字が発生しており、高額の保有コストの発生が予想されていた状況であったことなどを考え併せれば、一括事業譲渡方式が持つメリットは譲渡価格の低下に匹敵するかそれを上回るという経営判断も、不合理あるいは不適切とは言えない。
したがって、本委員会は、この処分方法を決定したことは日本郵政に委ねられるべき経営判断の範囲を超えていないと判断する。また経営会議での協議を経て執行役社長が決定し取締役会に報告されているのであるから、方針の決定に当たって、社内の意思決定手続きに違背した点もない。

エ 事業譲渡先の選定手続きについて 【本文P.15】
本件のかんぽの宿等の譲渡は単なる資産譲渡ではなく包括的な事業譲渡であり、十分な資力と財務基盤を持った投資家が多数参加する状況が望ましかったが、一方、購入者側には各施設について十分なデュー・デリジェンスを実施する必要があり、この段階においては買い手の候補を数社に絞る必要があった。したがって、日本郵政がセラーアドバイザーとなったメリルリンチの助言に従って、まずホームページ上の告知とロングリストによる直接勧誘によってできるだけ多数の購買希望者を集め、予備審査を行った上で、その通過者に提案をさせ、それを審査して対象を数社に絞った上
でデュー・デリジェンスを行わせ、第二次提案を受けるという手法を採ったことは、事業譲渡先の選択方法として適切であったと言える。またこのような手法は、一定以上の規模の事業譲渡においては一般的なものである。
しかしながら、今回の譲渡先選定手続きには、以下に述べる問題点があった。

@ ホームページのタイトルは「かんぽの宿等及びかんぽの宿等を運営する宿泊事業部門のスポンサー選定に関する競争入札のお知らせ」であり、不動産の単純売却のための競争入札と誤解される虞があった。事業譲渡は、国の会計法で定める「一般競争入札」はなじまないものであるが、今回の譲渡に当たっては「入札」という言葉が不用意に使用され、様々な誤解と、その誤解に基づいた非難を受ける結果になった。

A 入札要綱において、予備審査の実施を明記すると共に、その判定基準を開示することによって、透明性、公平性を担保することが望ましかった。

B 日本郵政の契約手続きの規定が、一般競争、指名競争、随意契約についてしか規定しておらず、事業譲渡の際に準拠するべき具体的な規定の定めがなかった。これは明らかな契約手続き規定の不備である。

C オリックス不動産の最終提案書には、同社選定の審査に関わっていた者の氏名を明示して副社長に登用する旨の記載があった。選定審査に関わっている者の具体的氏名が最終提案に記載されることの不適切性は明らかであり、直ちに抹消を求めるべきであった。

オ 平成20 年後半からの状況変化に対する対応の問題点 【本文P.16】
第一次提案提出日の前日(平成20 年8月)、メリルリンチからサブプライム問題に端を発した金融及び不動産市場の混乱などから、選定プロセスを継続するか中止・延期するかを検討する必要があるという提案があった。景気の動向と不動産市況は悪化の一途を辿っていたのであるから、少なくともこの時点で、経営会議でメリルリンチが助言した検討項目についての十分な協議がなされるべきであった。
また、第二次提案を受領した後(平成20 年11 月)に、メリルリンチは日本郵政に提出した書面において、本件実行中止も一つであるが、譲渡期限や各種リスク要因を勘案すると、現状の価格水準であっても、本件譲渡を断行する方が、メリットが大きいとした。一方で、このままでは譲渡損失を計上する形になりかねないことから、開発不動産(世田谷レクセンター等)を譲渡対象から除外する代替案を検討する必要があると助言した。
担当者は、この助言に従い@本件実行中止、A交渉継続、B譲渡対象の一部変更、の3案を検討した結果、案Bにより鑑定評価額と評価額との乖離の大きい世田谷レクセンターを譲渡対象から外すこととして、2社と価格引き上げの再交渉をしてうまく行かなければ実行を取り止めることとし、経営陣に順次口頭報告して確認を得た。しかしながらこの確認については、稟議にかけることも、文書で記録に残すこともしていない。
再交渉の結果、 オリックス不動産の最終提示額は、18 億円引き上げた約109 億円であり、クロージング時の世田谷レクセンターを除く想定純資産相当額を上回るものであったが、もう1社からは修正提案の提出がなかったため、稟議決裁を経て、オリックス不動産に優先交渉権を付与した。
本委員会は、第二次提案が2社ともクロージング時の想定純資産相当額を下回る額であることが判明した時点で、本件中止か、条件変更か、どのような条件変更をするかについて、少なくとも経営会議で十分な協議をした上で、重要事項として取締役会への報告がなされるべきであったと考える。
その理由は以下のとおりである。

第1に、本件資産が国民の共有の財産であることからその処分には公正性・公平性・透明性が要求されていたことである。

第2に、世田谷レクセンターは重要な高額物件であったから、これを外した組み合わせでの購入機会を、デュー・デリジェンスを実施した者にのみ与える結果となることは必ずしも適切でなく、また説明責任もあるのでそのメリット、デメリットを検討するべきであった。
しかしながら、追加的な損失計上・資金負担の可能性、譲渡期限までの譲渡実行の不確実性を考えると、早期の円滑な譲渡を続行するために世田谷レクセンターを外したこと自体が、著しく不合理であったとは言えない。ただし、この重要な方針の決定について、文書による記録が残されていないことは、著しく不適切である。

カ 鑑定評価について 【本文P.19】
鑑定評価は、宿泊事業施設である特性を踏まえ、費用性よりも市場性や収益性に重きを置いて鑑定評価額が評定されており、妥当である。

キ 事業譲渡価格について 【本文P.19】
譲渡価格はあくまで譲渡希望者と買い受け希望者の意志が一致する額として決定される。本件においては、オリックス不動産の評価額が最高額で、それ以外の評価額ははっきりと下回るものであったが、これが市場の評価であり、その額が売り手の希望と乖離したときの売り手の選択は譲渡を中止するという外にはない。本件では、日本郵政の側は、譲渡損失の計上を回避しようとしたものであるが、この時点での譲渡を考える限り、その選択が不適切とは言えないことは明らかである。
ク アドバイザーについて 【本文P.20】
今回の契約が不適切であったとは言えない。ただし、選定手続きと手数料の考え方につき、さらに透明性・公平性を備えるべく、採点項目や評価基準について社内で明確化することが望ましいと思われる。
また、外部委託にあたっては、費用対効果を分析の上実施するべきであり、アドバイザーから受けた重要な提案についても十分に検討して意思決定を行うべきであって、その記録を残すことも必要と考える。

5 提言
日本郵政グループが今後不動産の処分等を行うに当たっては、多様な処分方法等を十分に検討した上で適切な価格で処分等を行うとともに、処分等の手続きにおいて公平性・客観性を確保することが重要であるとの認識を踏まえ、以下のとおり提言する。

(1) 意思決定の在り方について 【本文P.21】
不動産の処分等を行う際には、処分等の時期、及び
・ 個別売却か、一括売却か、あるいはその組み合わせか
・ 不動産売却か、事業譲渡等か
・ 信託、証券化等その他
といった手法のいずれを採用するかにつき、また最終決定に至るまでの途中段階においても、重要な条件変更、外部環境に重大な変化が発生した場合の対応、優先交渉権の付与等については、
@ 経済合理性(処分価格、保有に係るリスク及びコスト、追加投資の是非、雇用等の附帯条件の有無、等を含む)
A 緊急性(譲渡又は廃止等処分の期限の有無を含む)及び確実性
B 公共性(会社設立背景を考慮)
といった要素を考慮し、然るべき会議体あるいは権限者が、十分に比較考量がなされた資料に基づき議論・検討の上、意思決定を行わなければならない。その際に、担当部署の責任と権限を明確にするとともに、必要な関係部署と十分に協議又は検証を受けることが望ましい。
また、こうした意思決定に至る経過を適切に記録するべきである。
特に、かんぽの宿等の国民の共有財産と目される重要資産あるいは重要事業部門の譲渡に当たっては、経営会議で必要な情報が共有されたうえで、十分な検討と協議が行われるべきであり、またその結果のうち重要な事項については十分な資料を添えて取締役会に報告されなければならない。

(2) 処分先につき考慮すべき事項 【本文P.21】
ア 各種取引制限
処分先の業種、用途について、反社会的勢力等との取引を行わないことは勿論であるが、周囲の状況、当該地域の社会的要望等にも配意すべきである。

イ 地域への配慮
日本郵政グループ設立の経緯から、地方公共団体あるいは地域経済にも配意すべきである。

(3) 処分先選定手続きにつき留意すべき事項 (入札手続き等の公平性・透明性、情報
開示について)
【本文P.21】
処分手法に応じて、いわゆる競争入札、企画提案等、最も適切な手続きを選択するべきであるが、いずれの場合においても、事前、事後あるいは経過のいずれにおいても透明性・公平性を疑われることのないよう措置を講じなければならず、いずれの処分手法による場合も、原則として購入検討者に対しての公平な情報開示に努めるべきである。
また、処分先の選定基準についても社内で明確化することや、応札者の形式的要件の確認に留まらず資本及び人的関係を把握すること等により、不正な意思に基づく一者入札とならないよう、留意するべきである。

(4) 処分価格 【本文P.22】
鑑定評価や簿価を処分価格の参考とすることは不適切ではないが、鑑定評価額を求める場合には、鑑定評価の前提条件等に留意するとともに、地域の実情に応じて少しでも有利な条件に応じられる譲渡候補先を探索するなど、市況調査等も併せることによって、適正な価格での処分に努めなければならない。
具体的には、鑑定評価の条件、前提、考え方が、物件の特性や処分方針等に合致しているか、時点修正の必要性はないかの確認や、収益物件を取り巻く諸環境の変化や不動産市場の動向等の確認を行った上で処分等の判断を行うこと等が必要と考える。特に事業譲渡の場合は、資産価格と事業価値が必ずしも一致しないことから、不動産の鑑定評価以外に事業評価の算定意見を取得することも検討するべきである。

(5) 内部統制 【本文P.22】
資産の処分に際しては、経営者の善管注意義務の観点から、会社にとって最も有利な方法を選択することは当然のことであるが、運用に際してはこれらに関する具体的な規程を整備するとともにその遵守を図るよう措置すべきである。
以 上

 

※なお、文章中【本文P.○○】と記載があるのは、報告書本文の該当ページのことです。

世間を騒がせたいわゆる「かんぽの宿」問題について、「不動産売却等に関する第三者検討委員会」から報告書等が発表されました。我々不動産鑑定業界からも、個人情報保護法等にも精通している澁井和夫先生が委員として選任され、ご活躍されました。

今回の件では不動産鑑定評価の観点から見ると、不当鑑定評価は見られなかったようであり、不動産鑑定業界の権威失墜は免れたように思います。

但し、不動産鑑定評価には想定上の条件を付すことが可能な場合があり、今回のような大規模特殊案件の場合は特に慎重に考慮しないと、評価額の正確性や妥当性が全く検証できないものになる恐れがあります。

不動産鑑定評価実務に携わる者として、今回の件を反面教師にして、安易な想定上の条件は付さないよう、これからの不動産鑑定評価業務に従事していきたいと思います。

神奈川鑑定 不動産鑑定士 石井

 

不動産鑑定で地域に貢献